2020年10月01日 猫学

「猫は化学物質が苦手~甲状腺機能亢進症の謎」の話

「猫は化学物質が苦手~甲状腺機能亢進症の謎」の話

私たちの身の回りは様々な化学物質であふれています。シックハウス症候群で有名になったホルムアルデヒドや有機溶剤、防腐剤、内分泌撹乱物質として問題化したダイオキシン類など、建材、大気、水質、土壌と化学物質で汚染されていない場所はどこにもありません。

 

多くの化学物質は体内に取り込まれても、代謝され排泄されて大きな問題にはなりません。また、薬剤などの化学物質には急性毒性、慢性毒性、催奇形性などの厳しい安全性試験が課せられています。

 

私たちの体は、摂取してしまった化学物質をどのように処理し無害化しているのでしょうか。今回はその仕組み、いわゆる解毒機構のお話です。

 

化学物質の代謝に関連した酵素の多くは肝細胞に発現していますので、解毒の主戦場は肝臓ということになります。解剖学的にも消化管で吸収された栄養素を含む様々なものは門脈という血管に吸い上げられ肝臓を経由しなければ全身循環に入ることはできません。少なくとも経口的に取り込まれた化学物質は吸収後速やかに肝臓で代謝を受けることになります。

 

肝臓に到達した化学物質はシトクロムP450(CYP)に代表される代謝酵素によって水に溶けやすい化学構造に変換されます(第Ⅰ相反応)。次に、グルクロン酸、硫酸などの水様性物質を結合させる抱合反応によってさらに水溶性を向上させます(第Ⅱ相反応)。抱合体はP糖タンパクなどの膜輸送体に対し親和性標識として働き、細胞からの排出を促します(第Ⅲ相反応)。こうして排泄されやすい構造になった化学物質は全身循環に乗り腎臓から排泄されるのです。

 

この化学物質代謝系には動物間で大きな種差があることが報告されています。残念なことに、猫ではグルクロン酸抱合酵素のひとつを作れないことが遺伝子レベルで分かっています。下図のようにグルクロン酸抱合酵素をコードする遺伝子のグループがあります。UGT1A11A5は内因性物質(例えばステロイドホルモン、ビリルビンなど)を、UGT1A61A10は外因性物質(例えばフェノール、フラボノイドなど)を抱合する酵素をコードしています。猫では、その内のUGT1A6が偽遺伝子化していることが分かっているのです。偽遺伝子化とは遺伝子に変異が導入されて機能がなくなることをいいます。人では多くの嗅覚受容体遺伝子が偽遺伝子化していることが知られており、猫は進化の過程でUGT1A6がコードする酵素が不必要な生活を続けていたのかもしれません。

 

その結果として、猫は外来の化学物質の代謝が苦手な動物になってしまったのです。フェノール系薬物(クレゾールなど)、アセトアミノフェン、NSAIDs、ペルメトリン、αリポ酸、一部のアロマ精油など、人や犬では大丈夫な化学物質でも深刻な中毒を起こしてしまいます。

 

さらに注意が必要なのは、中毒などの急性毒性を示さない化学物質でも、代謝できないことで長年にわたり体内に蓄積され、健康に影響を及ぼすことがあります。最近、猫にポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)(臭素系難燃剤)が高蓄積していることが判明し、ネコの甲状腺機能亢進症との関連性が強く疑われています。米国の高齢猫でポピュラーな内分泌疾患の甲状腺機能亢進症ですが、日本ではそれほど多くはないというのが臨床現場での印象だったのですが、近年増加していると感じています。日本家屋から欧米化した住宅への様変わりが影響しているのかと、ストンと腑に落ちているのです。

 

愛猫のお気に入りのおもちゃ、爪とぎスポットになってしまっている壁や敷物、隠れ場所になっているカーテンやボックス、その材質や使用されている添加剤を確認できる限り確認したいものです。

 

とは言え、人に有害な物質の表示があったとしても、なかなか難しいものですね。

(文責 よしうち)


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