2003年08月01日 行動学

病院嫌いの話

病院嫌いの話

  「立つ瀬がない。」という状況に、地団太を踏んで唇をかみ締める思いをした事のある方も多いと思う。やり場のない怒りとも悲しみとも違う情けなさだけが残る。なるべくこのコラム、楽しい話題で満載にしたいのだが、毎月自分に課した締切日が迫り、常に絶好調というわけにもいかない。落ち込んだときの獣医の姿もまたひとつの姿とご容赦いただきたい。

  もとより、獣医師のそれも日々診療の現場にいる獣医師の気持ちは、なかなか上手く理解していただけないことも多い。様々な病気やコンディションを抱えて病院を訪れる動物たち。その動物たちを心から愛し、元気のない姿に心を砕き、心配をぶつけてきていただける飼い主さんたち。するべき事は多岐にわたるが、動物たちが元気な姿を取り戻してくれれば、たいていのことは報われ、獣医師としてやりがいや幸せを感じる瞬間でもある。

  しかし、その治療の過程では動物たちに採血や注射で針を刺す痛みを与え、レントゲン撮影やエコー検査ではじっとしてもらうために動きを拘束する。入院では慣れぬケージに閉じ込め、時には点滴のラインをつなぎ、手術では麻酔下とはいえ体にメスを入れる。全くもって当たり前といえば当たり前の医療行為ではあるのだが、動物たちから自分の姿は鬼のように見えているのかもしれないと、心が痛い。

  看護婦さんたちはしょっちゅう、

  「ごめんね。我慢してね。えらかったねー。」

と声をかける。

  そんな嫌な思いを動物たちにさせるのだから、自分達の医療行為は決して避けて通れない動物たちのために絶対的に必要なこととの自負がなければならない。そのために常に最新の獣医学を学び、取り入れ続ける。自分たちも、そしてそれ以上に看護婦さんたちも、少しでも家にいるときのような環境に近づけ、多くの愛情を注ぎ、動物たちの気持ちを和らげるよう努力を惜しまない。

  その気持ちが通じ、痛い思いを我慢してくれている動物たちも多いが、それでも、ガルルーくんもいれば、シャーシャーちゃんもいる。家での行動とはかけ離れたとんでもない素行を示してくれる子もいる。入院が決まり、飼い主さんが帰った途端に、きっと心細いに違いないのだが、触れられることすら拒絶する子もいる。
  動物の飼い方のイロハなのだが、「嫌がることはしない」「いい子にしていれば褒める」「いけない子だったら無視する」「何度も褒めるために、いいことをさせる」そしてどんどんいいことを強化していく。

  病院に行き治療をうけるという行動は、ちょうどその反対のことをしているようなものだ。病院に行けば嫌なことをされる。行っても遊んだりご褒美をもらったりという楽しいことはちっとも無い。他の動物がいて、痛くて苛立っている怖い猫だったり、処置をされて鳴いている犬だったりと、何だかとても恐ろしげな所だ。これでは、動物たちに好かれる場所にはなりようも無い。嫌われ役なのは仕方ないことと諦めてはいるが、決して嫌われるのが好きなはずもない。むしろ動物たちが好きでこの仕事をしているのだ。動物たちのために嫌われ役を買って出ているのだと自分を慰める。
  定期健診に通ってもらっているワンちゃんがいる。糖尿病で2ヶ月に1度、半日預かりで血糖値をチェックする。とてもいい子で検査にも協力的だ。本日の検査も終わり、お父さんのお迎えが来た。

  「血糖値はいい感じにコントロールされています。インシュリンの量はこのままでOKですね。」

  結果を報告しているときだった。

  「先生、前回の検診のときから病院に入るのをえらく嫌がるんですわ。」

  「怖がってるみたいで、どうしたんですやろ。」

と、お父さん。

  「そうですか。特別なことは何にもありませんでしたが・・・。」

  「この子にとっては、無理に預けられて、針で突かれて検査されて、いいとこなしの場所ですから、だんだんと嫌いになっても仕方ない状況ですけれど。とうとう嫌われてしまったのですね。」

と応えると、

  「いや、それまでは全然怖がってなかったですよって、何かあったんと違いますか。」

  追求するような口調に、困り果ててしまった。

  好んで嫌われ役をしているのではない上に、飼い主さんからはお叱りが来てしまった。自分なりにはストレスをかけぬよう精一杯心配りし、特に嫌がる素振りもなく、いつもと変わりはなかったのだが。。。

  「いい子ちゃんですし、愛情を持って誠実に検査はやらせていただいていますが、この子にとって嫌なことであることに違いはありません。いじめたくてしているのではなく、しなければならないからさせていただいているのです。それで怖がるようになったからとおっしゃられても、立つ瀬がありません。」

  実際、気の弱い子なら、検査そのものだけでなく、その時に事故の動物が運び込まれたりして、その異様な気配にその場所を嫌うようになることもある。いずれにしても、ずっと飼い主さんにこちらのしていたことを見ていてもらえれば解っていただけることなのだが、

  「犬は口ききまへんからな。」

という飼い主さんの言葉に、

  「・・・(絶句)(あーそれはこちらが言いたいことや)」

と、痛く痛く心の傷ついた、情けない1日なのであった。

(文責:よしうち)

大阪市の南大阪動物医療センター

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大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
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