2021年11月01日 整形外科

「滑る床は危ない」の話

「滑る床は危ない」の話

皆さんのおうちの床は、カーペット? たたみ? フローリング?

時代とともにライフスタイルも変化し、居住性や利便性、経済性を考えてさまざまな床が登場しています。最近のトレンドは、やはり清潔さを求めてフローリングの床が多いのではないでしょうか。この快適なフローリングも動物たちにとっては「滑る床」となり、いろいろな危険をはらんでいます。

 

ワンちゃんにとってフローリングの床は爪がかからず、転倒してしまうことも珍しくはありません。滑ってコケてしまう時に起きていることは、ちょうど人が道に落ちているバナナの皮を足で踏んづけた時と同じで、重心からの力を受ける軸足がバナナの皮に乗っかった瞬間、路面との摩擦力が小さいため静止することができずにズルっと滑り、反対の足のつま先との距離がどんどん広がって転倒してしまうのです。これを科学者が計算すると、バナナの皮を踏んでも歩き続けられる歩き方は歩幅が15cmまでというのです。

    

 

ワンちゃんも小さい頃から、屋外でしっかりとした運動の時間が取れずに、フローリングの上での生活を続けていると、滑って転ばない歩き方、つまり、しっかりと踏ん張らずにちょこまかと歩幅の小さい歩き方が自然に身についてしまいます。

 

筋肉や骨格は正しい負荷を受けることで健全に発育しますから、踏ん張ることの少ないフローリングの上で成長期を過ごせば、筋肉量の少ない華奢な骨格になってしまうことは想像に難くありません。

 

 

「膝蓋骨脱臼」は、膝蓋骨という膝のお皿が正常な位置から外れてしまう疾患のことです。

膝蓋骨の脱臼の原因は十分に解明されていませんが、遺伝的な素因に様々な外的要因が影響して発症すると考えられています。イタリアの大規模な調査では43%が1歳未満で発症し、73%が3歳未満で発症していることから、発育期の疾患と考えられています。自分の経験でも、トイプードル・チワワ などのトイ犬種ではちょうど骨格の伸びが止まり、体重が乗り始めた7-8か月令の発症が1つのパターンであるように思います。

 

トイ犬種の膝蓋骨脱臼は内方への脱臼がほとんどですが、初期は滑車溝 から落っこちたり戻ったりといういわゆる習慣性脱臼の状態から、次第に外れることが増え、とうとう外れたままになってしまいます。この症状の進行にも滑りやすい床材の問題は深くかかわっていると考えています。症状もちょっとしたケンケンやスキップのような歩き方が見られる程度から始まり、見た目には普通に戻ったりすることも多いので、様子を見ようということになりがちです。進行すれば脛骨(向こう脛の骨)が内旋し、足先が体の中心を向くような、例えは悪いですが芸者さんのような内股の歩き方になり、歩行能力が大きく低下します。

 

I-Z運動という膝蓋骨脱臼の矯正のための有名なリハビリ方法があるのですが、これは、後肢をIの字に真っ直ぐに伸ばし、次ぎに屈曲させてZ字にする、これを繰り返すのですね。

メリハリの利いた受動的な屈伸運動なのですが、これで滑車溝が深くなって、外れにくくなっていくと言われています。子犬期に有効とされていますので、フローリングをマットで滑りにくくするだけでも、後肢をぐっと踏ん張ったり、ダッシュできるようになり、I-Z運動 と同じような効果が期待できると思っています。

 

 



フローリングは、今まで述べてきたような発育期の問題だけでなく、転倒そのものでも、様々な問題を起こしてしまいます。転倒する瞬間には、関節部分に通常とは異なる方向に、(しかもテコが効いていますから)思わぬ大きな力が働きます。

 

転倒で一番問題になる怪我は、膝の前十字靭帯の損傷でしょう。大型犬種では最もポピュラーな整形外科疾患で、遺伝的な要素が大きいと考えられていますが、トイ犬種でも多くの発生が見られます。転倒後に足を挙げ、体重を支えるのを嫌がります。膝蓋骨脱臼のない子でも発生しますし、膝蓋骨脱臼を持っている子であればなおさら発生しやすいと考えてよいでしょう。実際、3歳以上の膝蓋骨脱臼を持っている子が足を少し浮かせるようにかばう様な跛行を示せば、十字靭帯の損傷が合併した可能性を強く疑わないといけません。統計的には、膝蓋骨脱臼に十字靭帯損傷が合併しているのは15%程度と見積もられています。

 

それ以外にも、トイプードルの肩関節の脱臼、M・ダックスやコーギーなどの椎間板ヘルニアなどは、転倒が元で発生することがあります。

 

トイプードルはもともと肩関節の形成が悪く、他の犬種では珍しいと考えられている肩関節脱臼が比較的簡単に起こってしまいます。完全に脱臼してしまった症例では手を着くことができませんので、外科的な整復が必要となりますが、亜脱臼程度で済んだのちも肩関節は不安定なままですので、フローリングの上で生活するのは、時限爆弾を抱えているようなものです。

 

ダックスなどの脊椎異栄養犬種と呼ばれる犬種では、1歳程度で椎間板の中の髄核といういわばゼリー状のクッションが変性して固くなり始めますので、人が他愛もないことでぎっくり腰になるように、容易に椎間板が破れ、髄核が飛び出して脊髄を圧迫します。激しい痛みを伴いますし、さらにひどく飛び出せば後躯マヒを起こしてしまいます。

 

 

健全な筋肉や骨格の発育のためにも、様々な遺伝的要因を持った子たちの安全のためにも、滑らない床は、大切な環境要素の1つです。

 

歩行能力の低下は、ワンちゃんの生きがいの喪失や認知症の進行につながります。ぜひ動物たちが若いうちから「足腰に配慮した」生活を考えてあげてくださいね。

(文責 よしうち)

 

*今回のコラムの内容は、YouTubeのペピイチャンネルで吉内が動画で解説しています。

ペピイチャンネル:https://www.youtube.com/user/peppynet01/videos

*当センターでは、フローリングによくフィットする「ピタッとマット」を推奨しています。



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