2021年12月01日 診断学猫学

「動物の聴覚」の話

「動物の聴覚」の話

皆さんは耳鳴りに悩まされた経験をお持ちでしょうか。外部に音がない状態でキーンという音やヒューヒューいう音などがその人にだけに聞こえているという状態です。最も一般的な原因は、内耳の有毛細胞の損傷です。これは騒音にさらされたり、加齢により引き起こされ、しばしば難聴と同時に発生します。

 

先日来、自分もその耳鳴りに悩まされ、某大学病院を受診しました。待っていたのは聴力検査(純音聴力検査)で、可聴域の各周波数における聞こえ始めの音の大きさ(最小可聴閾値)をプロットしたオージオグラムと呼ばれる聴力図が作成され、4,000Hz以上では聞き取りにくい状態であることが分かりました。軽い難聴による耳鳴りの可能性が示唆されましたが、後日念のためにMRI検査を受けることになっています。

 


犬や猫の聴覚は人の何倍も発達しているという話を聞いたことがある方は多いでしょう。そもそも、動物の聴覚はどのように進化してきたのでしょうか。

 

聴覚は脊椎動物が最後に獲得した感覚、つまり最も新しい感覚チャンネルといわれています。形態形成の最初の設計プランには聴覚系は想定されていなかったことが比較解剖学的に立証されています。外耳は鰓裂(えらあな)に由来し、海中から上陸した脊椎動物は、鰓呼吸から肺呼吸へと変わるに従って不要になった鰓裂は閉鎖されていく一方で、第1鰓裂は外耳を形成します。すなわち元来呼吸器であったものが聴器に転用されたのです。

 

これに対し水中で進化をとげた近代魚類にも聴覚はありますが、これは鰾(うきぶくろ)で集音(魚体全体が共鳴体となる)された音波がWeber 骨(胸骨や肋骨の一部)を介して内耳に伝えられというものです。両生類や爬虫類に外耳はなく、第1鰓裂を覆う皮膚が鼓膜となっています。

 

中耳すなわち鼓室は哺乳類になって初めて完成します。ここでは鼓膜で受けた空気振動を耳小骨を介して力学的に内耳に伝えます。ツチ、キヌタ、アブミの3本の耳小骨を持つのは哺乳類になってからで、両生類と爬虫類では耳小柱という1本の骨が鼓膜と内耳を直結しています。従って後者では前者のような3本の耳小骨連鎖によるインピーダンス変換は理論上できません。

 

驚くべきことに、ツチ―キヌタ関節は原始顎関節に由来しているのです。アブミ骨と耳小柱は相同ですが、これは第2鰓弓由来の素材で顔画神経支配です。ちなみに二つの耳小骨筋のうち鼓膜張筋(ツチ骨に付く)は三叉神経(第1鰓弓)支配であるのに対して、アブミ骨筋は顔面神経(第2鰓弓)支配であることは、上記の相同関係の正しさをより確固たるものにしています。

 

このようにして元来食物を咀嚼するための構造が聴器に転用されていることになるのです。哺乳類では頭蓋骨全般にわたる大変換が起こって、歯骨と呼ばれる新しい骨素材が顎領域を覆い尽くし、新しい顎関節が鼓室のすぐ前に作られています。内耳は側頭骨内に埋まっている迷路で、平衡覚の検知器でもあります。

 

迷路は外リンパと内リンパを容れた二重構造になっていて、原始的な脊椎動物(例えばヤツメウナギ)では迷路に聴覚検知機能はなく平衡覚検知機能(前庭器)しかありませんが、その前庭器の一部が増大機能分化して聴器になったのです。

 

外リンパと内リンパを隔てる膜迷路の一部には感覚有毛細胞が密集した領域があり、これらは陵(crista)又は斑(macula)と呼ばれます。哺乳類に見られる聴器としての内耳は有毛細胞が連続して基底膜上に並ぶ螺旋状の構造物である蝸牛(cochlea)に進化します。蝸牛の発達は脊椎動物の進化に見事に対応しているのです。

(出典:日本音響学会誌60 10 号(2004, p. 620−625



このように進化してきた聴器は、様々な動物の環境や食性に対応することによって、さらなる発達を遂げることになるのです。

動物

最小(限界値)

最小(標準)

よく聞こえる範囲

最大(標準)

最大(限界値)

出せる音

ヒト

12 Hz

40 Hz

1,0003,000 Hz

17,000 Hz

23,000 Hz

80Hz3,000Hz

イヌ

15 Hz

67 Hz

 

45,000 Hz

60,000 Hz

450 1,100Hz

ネコ

45 Hz

60 Hz

 

47,000 Hz

64,000 Hz

750 1,500Hz

ウサギ

 

360 Hz

 

 

42,000 Hz

 







(出典:音楽研究所「アニマル・サウンド・リアクション」)

この表ではヒト・イヌ・ネコ・ウサギの可聴域などを示しています。イヌもネコも高い周波数まで聴くことができるのですね。一説には、ネコはアリの歩く音まで聞こえると言われていて、耳介の発達とも相まって音の方向や音までの距離を正確に把握できているのです。捕食のための進化ですね。

 

一般に,可聴範囲が広い動物は、聞こえる周波数内の二つの音を聞き分ける能力が犠牲になっています。ヒトはほ乳類の中では可聴範囲は狭いほうですが、その代わり高い音弁別の能力を持っている種であると言えます。

 

ヒトは、自分が発する音を用いて「言葉」というツールを持つようになり、革命的に知の進化を遂げてきました。その人とともに暮らし生活する動物たちにも、可聴域を狭めて音弁別能を研ぎ澄ます進化圧力がかかっているかもしれません。

 

未来のワンちゃん、ネコちゃんの診察では、

「ちゃんとオシッコは出ましたか?」などと、

直接動物たちに聞くことができるようになっているかもなんて。。。

これはちょっと飛躍しすぎかもしれません^^

(文責 よしうち)

 


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