猫学皮膚科

「肉球の中身」の話

「肉球の中身」の話

猫の魅力のひとつにあのぷにぷにした肉球があります。ふと肉球の中には何が入っているの?と素朴な疑問を抱いた方は少なくないことでしょう。今回のコラムでは、犬の肉球と比べながら、その秘密を紐解いてみたいと思います。


そもそも肉球とは、四肢の肢端にある指骨や趾骨、中手骨や中足骨を覆う皮膚がその役割のために進化したもの。負重や運動、捕食において接触面として果たす役割は極めて重要です。足音を消したり、クッションとなったり、滑り止めとして機能しています。さらに顔のお手入れや、物を掴んだり、爪とぎの際の臭い付けの役割も果たします。

 

肉球は皮膚が変化したもの。その構造は通常の皮膚同様に表皮・真皮・皮下組織から成ることに違いはありません。それでは、まずその表面の観察から始めましょう。


左は犬、右は猫の肉球です。

 

 

(corn:角質層,epi:表皮,derm:真皮,hypo:皮下組織)

 

断面で見ると、犬の場合、真皮の円錐乳頭は細長いスパイク状の突起を形成しています。(A)。 猫の場合、肉球の表面は円錐形の先端がなく滑らかです(B)。

 

犬の円錐乳頭の付け根の水平断層はハニカム状に配置されています。


SE:層状上皮,DP:真皮乳頭)

この構造が皮下脂肪層と相まって、地面からの衝撃の減衰に効果を発揮していると考えられています。

 

  

一方、猫の肉球の皮下組織には強靭なⅠ型コラーゲン線維で区切られた微細な脂肪のコンパートメントが多数存在し、地面から受ける衝撃エネルギーの強力な吸収材となっています。

 

犬の肉球がザラッとした感じなのは、円錐乳頭から伸びるスパイク状の突起のせいであることや、猫の肉球がぷにぷにした感触なのは脂肪のコンパートメントのさわり心地であることが分かりました。衝撃の吸収の仕方が異なるのは、それぞれのライフスタイルに適応したものであることは容易に想像がつきます。

 

詳細な力学的検証は今回参照した以下の論文を検索いただければと思います。

BioMed Research International / 2019 / Article

Volume 2019 |Article ID 2183712 | https://doi.org/10.1155/2019/2183712

Comprehensive Biomechanism of Impact Resistance in the Cat’s Paw Pad

Xueqing Wu,1,2 Baoqing Pei ,1,2 Yuyang Pei,3 Yan Hao,1,2 Kaiyuan Zhou,1,2 and Wei Wang1,2

 

Biol Open. 2017 Dec 15;6(12):1889-1896. doi: 10.1242/bio.024828.

How does the canine paw pad attenuate ground impacts? A multi-layer cushion system

Huaibin Miao 1, Jun Fu 1, Zhihui Qian 2, Luquan Ren 1, Lei Ren 1 3

 

Comparative Anatomy of the Vasculature of the Dog (Canis familiaris) and Domestic Cat (Felis catus) Paw Pad

January 2013Open Journal of Veterinary Medicine 03(01):11-15

DOI: 10.4236/ojvm.2013.31003

 

肉球の中身には、想像を超える精緻なメカニズムが詰まっていました。

新年を迎え、肉球に負けないよう今年もより中味の詰まった診療を心掛けていきたいと心に誓ったのでした。

(文責 吉内)



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