猫学整形外科

「愛猫のロコモに気付いてあげよう」の話

「愛猫のロコモに気付いてあげよう」の話

「ロコモ」という言葉をよく耳にするようになりました。

運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を 「ロコモティブシンドローム」といいます。ロコモティブシンドロームとは、英語で移動することを表す「ロコモーション(locomotion)」、移動するための能力があることを表す「ロコモティブ(locomotive)」からつくられた言葉で、移動するための能力が不足したり、衰えたりした状態を指します。「ロコモ」とはその略称です。(日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイトより)

 

その仕組みは以下のようなシェーマで説明されています。

 


人では、両脚あるいは片脚の立ち上がりテストによって、セルフチェックすることができます。

ロコモ度テスト「立ち上がりテスト」https://locomo-joa.jp/check/test/stand-up.html

 

 

動物でも急速な高齢化によって、ロコモがクローズアップされるようになってきました。通販誌でも、段差を昇るための補助ステップや滑りにくい床材などなど、多くのロコモ対策グッズが並ぶようになりました。けれども、その多くがワンちゃん向け。猫は生来のしなやかさや運動能力の高さ、そして何より、痛みを上手に隠して表に出さない行動特性から、ロコモと無縁のように思っておられる方が多いのかもしれません。病院を訪れるのはよほど重症化し、顕著な跛行が認められるようになったごく一握りの猫ちゃんに限られるのです。

 

日本大学獣医外科学研究室の枝村一弥先生らの調査によれば、「日本においても、10 歳以上の猫の61.8% に変形性関節症もしくは変形性脊椎症が存在しており、その罹患率は12 歳を超えると70% 以上へと急に上昇していた。そのような背景から、日本でも多くの猫が変形性関節症に罹患していることが明らかとなっている。」とのことです。

 

猫では、加齢性変化、体重や運動などの負荷によって生じる「一次性」の変形性関節症が多いとされてます。人と同じような理由でロコモになっていくのですね。

 

その症状には以下のようなものが含まれます。

「ジャンプができなくなる」(最も多い)

「高い所から飛び降りられない」

「階段を昇らない」

「よく眠る」「あまり遊ばない」

「トイレの使用が難しくなる」

「グルーミングをしなくなる」

「爪が伸びている」「被毛の状態が悪い」

「人との交わりを避ける」「怒りやすくなる」

「食欲が低下する」「顕著な跛行が認められる」

 

 

人のようにセルフチェックというわけにはいきませんので、一緒に暮らすご家族が気付いてあげることが大切です。Zoetis USAHPには猫の変形性関節症のチェックページがあります。


 

          左 「うさぎ跳び」を使って、両方の後ろ足を同時にホッピングしながら階段を登ります。

          右 体を横に倒し、階段を 1 段ずつ下りていきます。



          左  後肢の筋萎縮があり、足が細くなっていることがあります。

          右  ゆっくりとした速度で移動し、ジョギングとウォーキングを交互に行います。


この6項目をチェックしてから、さらにあなたの獣医さんと行動学的な変化について話し合ってください。

 

1. 猫の性格や社交性は変わりましたか?

2. 猫の排尿や排便の習慣は変わりましたか?

3. あなたの猫は物陰に隠れることが多くなりましたか?

または、あなたの猫は活動のペースが落ちているように見えますか?

 

 参照:1.筋骨格系疼痛スクリーニングチェックリスト(MiPSC)© 2019ノースカロライナ州立大学

    2. リード、J、ノーランAM、スコット、行動観察を使用した犬と猫の痛みの測定。獣医ジャーナル、第236巻、20186:72-70ページ。

 

そして、変形性関節症の存在が疑われれば、レントゲン検査等によって、その原因を確認してあげましょう。

 

 

健康寿命という言葉があります。健康で日常生活を送れる期間のことですね。日本は世界有数の長寿国として知られていますが、平均寿命と健康寿命の間には男性で約9年、女性で約12年の差があります。この期間は、健康上の問題で日常生活が制限されたり、何らかの助けを必要としたりしていることを意味し、さらに悪化すれば介護が必要になる可能性が高まります。

 

猫においても、登りたいテーブルに登れない、階段を軽やかに昇降できない、思い切りおもちゃで遊べない、などはとてもつらい日常生活の制限に違いありません。

 

猫の変形性関節症は、運動と環境の改善、体重管理、疼痛管理などによって、症状や疼痛を大きく緩和できる可能性があります。同居猫が軽やかにテーブルに飛び上がるのを床から見上げ、すごすごと寝床に引き返す長老猫に手を差し伸べたいと思わないご家族はおられないでしょう。

 

従来の非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)を用いた治療のほか、今春には日本国内でも、抗神経成長因子(NGF)抗体製剤(フルネベトマブ)が発売されます。


先行して発売されているヨーロッパでの成績はすこぶる良いようです。嬉しいことに、抗体薬ですので、月に1度の注射で済みます。

 

ロコモの猫ちゃんたちにとっても、心を砕いておられるご家族の皆さんにとっても、朗報に違いありません。ウワサどおりの効果ならばと期待しつつ、発売を待つことにしましょう。

 

(文責 吉内)



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