2004年11月01日 ヘルニア

便秘の話(イヌ編)

便秘の話(イヌ編)

  いきなり尾籠な話で申し訳ないが「おじいさんの長小便」という言葉をどなたも一度はお聞きになられたことがあるだろう。そう、男が長生きすれば避けては通れないのが前立腺肥大の問題だ。

  しかし、動物種が変わると事情も大きく変わってくる。人間のオスは年齢と共に前立腺が求心性に肥大する。つまり中心に向かって大きくなるため尿道が圧迫されて排尿が困難になる。しかし、イヌのオスでは遠心性に肥大する。そして前立腺の周りの臓器・組織を圧迫する。一般的に圧迫を受けるのは直腸であり、結果として排便困難を起こしたりする。症状として見受けられるのは紐状の便であり、排便時の強い息みなのだ。この強い息みと加齢などによる組織の脆弱化が会陰ヘルニアと呼ばれる厄介な臓器の逸脱を招いてしまうこともある。通常、イヌの便秘という話になれば、この前立腺の問題や会陰ヘルニアであることが多く、その90%以上が去勢をしていない雄イヌに発生する。

  次のカルテはと手に取ると、柴犬のドンくん12歳。ウンチが出ないとメモ書きがある。さっそく診察室に入ってもらった。

  「ウンチがでないのですか?」

  そう問うと、

  「はい、散歩に行くと何度も何度も息んでくるくると回ったりするのですが、ほんのわずか出るだけで苦しそうで。」

とお母さん。

  「それは辛いですね。いつごろから始まったのですか?」

  「ほとんど出なくなったというのは最近なのですが、もともと便秘症でいつも出にくそうでした。」

  「そうですか。人のように単純な便秘症というのは犬ではほとんどないんですよ。むしろ、たいていは他の問題の結果として便秘が起こっているんです。」

  そう説明しながら、診察台のドンくんの身体検査を始めた。

  12歳を超えたドンくんの顔には白髪が目立ち、診察台の上ですらうとうと居眠りをしそうなくらいに好々爺然としている。肛門の周りを観察すると、組織がやせ、坐骨結節が目立つにもかかわらず肛門との間にはソフトボール大もあろうかという大きなふくらみがあり、触るとゴツゴツとウンチらしき塊が詰まっているのが分かる。典型的な会陰ヘルニアだ。

  会陰ヘルニアは腹腔が骨盤の尾側で閉じている部分つまり骨盤隔壁が直腸壁を支持できなくなって生じる。この隔壁はいくつかの筋肉からなり、この筋肉群の加齢による萎縮や男性ホルモンによる脆弱化をベースとして、そこに前立腺や尿路の問題、肛門周囲の問題などによる息みが加わって筋間に裂け目を生じ、そこに蛇行・拡張した直腸、小腸、時には膀胱などが逸脱してしまう。

  こんな説明をしながら、レントゲン検査をすることにした。そこには、肥大した前立腺と肛門の下に体腔からはみ出て大きな糞塊が写っている。幸いなことに膀胱は腹腔内にありヘルニアを起こしているのは直腸だけだった。

  「前立腺の肥大で排便しにくくなり、長期間息んでいたことが最終的な原因と思います。少しずつ裂け目に直腸が入り込み、さらに排便を困難にしていき、今の状況になってしまったのですね。」

  「治療は手術でその裂け目を閉じること。そして、男性ホルモンの関与がありますので去勢を同時に行わねばなりません。去勢によって再発率が下がることが証明されています。また、大きくなった前立腺は1ヶ月ほどでずいぶん小さくなると思います。」

  術式についてはこちらに任せていただく以外にはないが、単に裂け目を縫合することで目標が達成できることは少ない。既に筋肉の萎縮や脆弱化によって強固な隔壁を再建することができなくなっている場合が多いからだ。一般的には骨盤の閉鎖口を閉じている内閉鎖筋を反転しそれによって隔壁を形成するようにする。膀胱が脱出しているような症例では、精管を腹壁に固定するような補助手術を実施することもある。樹脂製のヘルニアプレートやキチンシートなどの人工物を用いた整復術は現在では推奨されていない。

  骨盤の形態や筋肉の残り具合によって困難さは様々だが、強固な隔壁を形作るのは決して容易なことではない。

  「いずれにしましても、整復術以外に良い方法はありません。術後の問題もないわけではありません。多いのが排便時の痛みですね。まれには直腸脱が起きることもあります。いずれもそれなりの対応で徐々におさまりますので心配はありません。むしろ問題なのは反対側のヘルニアの発生です。去勢手術で減少するもののゼロではないということです。」

  「わかりました。このままでは余りにもかわいそうで、ぜひ手術をお願いします。」

  術前検査をし、手術日の打ち合わせをする。

  さらに、手術までの間、ドンくんをこのままおいておくわけにはいかない。肛門から指をいれ会陰部に脱出した直腸に溜まっているウンチの塊を掻き出す。

  処置後、すっきりしたのかドンくんは大あくびで診察室の床に寝そべっている。

  「それでは、よろしくお願いいたします。」

  そう挨拶してドン君のお母さんがドンくんのリードを握った。さっと身を起こしドアの開くのを待つドン君。クルッと格好良く巻いた尾の付け根の下のほうに男性のシンボルの玉々がのぞく。

  「(タマタマはたしかに男の子のシンボルなのだけど、こんな悪さもするのよね。)」

  「(男はつらいよ)」

  思わずドンくんに心の中でつぶやいてしまった。

(文責:よしうち)


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