2005年05月01日 眼科

チェリーアイの話

チェリーアイの話

今回もまたまた前回に引き続き、出物・腫れ物のたぐいの話でいささか恐縮だが、今回の出来物の名前はちょっとかわいらしい。

  チェリーという言葉で皆さんは何を連想されるだろうか。さくらんぼのかわいらしい紅さだろうか、あのみずみずしい甘酸っぱさだろうか、JTが専売公社と名乗っていた頃の赤いパッケージのタバコだろうか。そういえば豪腕フランス人社長の采配で息を吹き返した某自動車メーカーにもそんな名前の車があったっけ。隠語にも××ボーイというのがあって、これは童貞のボクちゃんを揶揄?した呼び名だ。さしずめ連想ゲームのヒント風に言うと「赤い、丸い、ツルツル、酸っぱい、可愛い」というところだろうか。

  確かに、チェリーアイとは言い得て妙だが、いきなり赤い、丸い、ツルツルしたものが目頭のところから突然顔を出せば誰だって驚いてしまう。何より、一番驚いているのは、こんな物に飛び出されてしまった当の本犬くんであることだけは間違いない。
  次のカルテはと手に取ると、ビーグルのタロウくん2才。「目に何かが出来ている」とメモがはさんである。目の出来物といっても、ふつう眼球内部の出来物のことはまれで、まぶたの皮膚やまぶたの縁にポツンと出来ることが多いものだ。などと思いながら、タロウ君に診察室に入ってもらった。

  「目のどの部分ですか?」とたずねながら、タロウくんの顔を見る。

  もう、それ以上の質問は不要だった。



  「チェリーアイですね。」

  「そう言うんですか?」とお母さん。

  「通り名でチェリーアイと言います。瞬膜腺の突出というのが専門的な言い方です。ご説明しましょう。」

  そう言って、タロウくんを診察台の上にのせてもらった。

  「まず瞬膜、第三眼瞼とも言うのですが、そのことから話しましょう。」

  タロウくんのチェリーアイでないほうの目を見てもらいながら、上のまぶた越しに眼球を軽く奥の方へ押し込む。すると、白い膜のようなものが目頭から眼球を覆うようにすべり出てくる。

  「これが瞬膜なんですよ。第三眼瞼つまり、三つ目のまぶたという意味ですね。」

  眼球に傷がついたりして痛みを感じると眼球後引筋がケイレンのように強く収縮して眼球を後ろへ引っ張って第三眼瞼を滑り出させ、眼球を保護する役目を果たしてくれる。その第三眼瞼の内側(眼球側)に瞬膜腺という腺組織があり、涙を作ったり、まぶたの内側の免疫に関連した働きをしている。語弊を覚悟で言えば、「まぶたの中の涙も作る扁桃腺」とでも表現すればよいだろうか。

  この瞬膜腺の第三眼瞼へのくっつき方が犬種によって強かったりそうでなかったりする。コッカースパニエル・ブルドッグ・ビーグル・チワワ・シーズーなどはその付着の仕方が弱いために、瞬膜腺が少し腫れた程度でも第三眼瞼の内側でルーズに動くようになってしまうのだ。そして、ある日突然、瞬膜の内側から反転して目頭の方へ飛び出してくるということになる。

  「突然出てきて、さぞ驚かれたでしょう。」と水を手向けると、

  「はい。一体何がどーなったんやーって思って、びっくりしました。」と、お母さん。

  突出して外部に露出してしまった瞬膜腺は乾燥のために充血し腫れがひどくなって、もとの位置に戻りにくくなってしまう。点眼などによって炎症を抑え腫れが少なくなれば戻ることもあるが、ふつう一度突出した瞬膜腺は何らかの外科的固定を加えなければなかなか戻ってはくれない。

  「うちではナシスの方法といって、瞬膜腺をナイロン糸で眼球下直筋に縫合する方法で固定を行っています。昔は飛び出した瞬膜腺をハサミで切除するようなことも行われていましたが、少なくとも涙の30%以上を瞬膜腺が作っていますから、涙不足になってしまって、いわゆるドライアイ、専門的には乾燥性角結膜炎というのですが、を誘発することになりかねませんので、現在では切除は行われません。」

  そう説明しながら、チェリーアイと反対の眼の瞬膜をしっかり滑り出させ、その付け根の方を指差して、

  「反対の瞬膜腺も少し大きいようですよね。瞬膜を通して膨らんでいるのが分かるでしょ。」

  「こちらも飛び出さないという保証はないのですが、これと同じ位置に固定するということです。」

  「よく分かりました。いったん出てしまうと、少々がんばって目薬をさしても戻る可能性は低いということですね。」

  「手術の必要性もよく分かりましたが、私の一存では決めかねますので、主人と相談した後にお電話させていただいてよろしいですか?」
  その日の内に手術予約の電話が入った。そして数日後、手術を実施し、無事にタロウくんの可愛らしいさくらんぼは目頭の中に戻っていった。そして、翌日の退院日、お迎えのお母さんがタロウくんの目を見て、

  「わー、ぜんぜん普通ですね。手術してよかったー。」

  そして、大喜びでタロウくんを抱っこし

   「ありがとうございました。」

と、ペコリと頭を下げたその頭の上で涼しい眼のタロウくんが会心のウインクで、

  「(やっぱ、さくらんぼは食べるに限るわ。)」

  そうつぶやいたような気がした。

(文責:よしうち)

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