2006年04月01日 繁殖学

「ネコの発情期」の話

「ネコの発情期」の話

先月のコラムは、「イヌの妊娠診断」の話だけにするつもりで書き始めたのだが、その説明のためにイヌの性周期の話にまで及んでしまい、まとまりのない長文となってしまった。最後までお付き合いいただいた方々には、本当にご苦労様と御礼申し上げたい。 で、今月はというところなのだが、あそこまでワンちゃんの話を書いてしまうと、ネコちゃんは??ということになってしまう。先月の冒頭にも書かせていただいたのだが、「人では当たり前のことも、動物では必ずしもそうではない。犬でこうだからといって、猫にはまったく当てはまらない。こっちの常識はあっちの非常識ということが往々にしてあるものだ。」ヒトでも、イヌでも、排卵は自然に起きるもの。しかし、それが決してネコには当てはまらないことのひとつなのだとしたらどうだろう。自然排卵でなければ何排卵? 自然の反対語は? 次のカルテはと手に取ると、日本猫のポンちゃん、6ヶ月令の♀の子。避妊希望とメモ書きがある。そういえばワクチン接種の折に不妊手術の時期はいつくらいが良いのかと質問されていたのを思い出した。さっそく診察室に入ってもらう。 「先生、手術をお願いしたいと思いまして。ワクチンのときに6ヶ月になったら術前検査に来てくださいと言われてたと思うのですが。」とお母さん。 「よく覚えてくださってましたね。その通りのお話を差し上げました。」 「まだ発情は来ていないですよね。」と質問すると、 「発情っていうのがよく分からないのですけど、犬のように出血とかあるのですか。」と、お母さん。 「いいえ、出血はほとんど見られません。特徴的な性行動が見られるのですが、そうですね、ネコの性周期もふくめ少し詳しくお話しましょうか。」 と、説明を始めたのだった。 ネコは平均10か月程度で性成熟に達するといわれている。最初の発情は早ければ4か月令で来ることもあり、ペルシャを除いていくら遅くても12か月令を超えることはない。季節的多発情動物といわれ、日の長さが長くなると発情が誘発され、日照時間が短くなってくると終結する。2―9月の早春から晩夏が発情の季節となる。しかしその間一定の周期で発情が繰り返される訳ではなく、早春に14―21日間隔で何回かの発情をした後、サイレントと呼ばれる微弱発情の時期が訪れ、晩夏までにもう一度このパターンを繰り返すこともある。発情周期はイヌ同様、発情前期・発情期・発情後期の3つから成る。発情前期は1日かそれ以下で、突然6―7日間の発情期に入り、転がったり、頭を擦りつけたり、鳴いたり、足踏みをしたり、下半身を持ち上げながらうずくまったりという特徴的な行動を示し、オスに背中をくわえさせ乗駕を許すようになる。まったくネコの発情を見たことのない人が何か発作が起こったのかと驚くこともあるほどに、突然に激しい行動の変化が見られるのが普通だ。 「そうなんですか。それならポンちゃんはまだ発情が来てないと思います。」 と、お母さん。 「そうですか。それは良かった。発情行動に悩まされて、1日でも早く手術をしてほしいとせっつかれる飼主の方もおられて、困ることもあるんですよ。」 そういいながら、説明を進めていく。 「この激しい発情行動は1週間くらいで収まってきて、いつもの状況に戻るんですが、ちょっと詳しい方で、体温計などを外陰部に挿入して刺激することで収まることを知っておられる方もあるんですよ。」と話を続けると、えっ、というような顔でお母さんが、 「そんな危なっかしいこと、大丈夫なんですか。」と、逆に詰問されてしまった。 「いえいえ、決してそんなことを勧めてるわけじゃないんです。」 「交尾排卵ということを説明したくて。。。」と、タジタジになりながら説明を続ける羽目になってしまった。 ネコは排卵するのに交尾刺激を必要とする。多くの動物が交尾とは関係なく排卵する(自然排卵)のと比べると、非常にユニークなシステムといえる。ネコでは膣頭側部の刺激から始まるシグナルがゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を放出させ、視床下部を刺激して黄体形成ホルモンを分泌させ、その結果排卵が誘発されることになる。この刺激がなければ排卵は起こらず、成熟卵胞は退行期に入り発情行動が消失して、発情後期となる。 この交尾刺激による黄体形成ホルモン(LH)のピークから50時間ほどで排卵が起きるといわれているが、1回の交尾によるLHのピークレベルは様々で、そのレベルが低いネコは複数回の交尾により、より高いピークを迎えることができるため、結果として複数のオスの子供を妊娠することもある。 「へー、百発百中なんですね。」と感心しながら、ふと恥ずかしさを頬に浮かべたお母さんの表情に、まったくそれに気づかなかった振りをしながら、 「そうなんですね。年平均2.2回のお産をすることになるという統計もあります。」 と答えながら、本能に突き動かされるインタクトの猫たちの大変さをひしひしと感じるのだった。 ポンちゃんの術前検査をし、手術日を予約して、予約シートを手渡しながら、 「たいへんな思いをする前に不妊手術をするのがベストですよ。」 そう話しかけると、 「そうですね。人間のように理性で抑えきれない神秘とか野性みたいなものを感じました。」 と、お母さん。 診察台の上で、ゴロゴロのどを鳴らしながら、同意書にサインしてもらったボールペンを手で転がしているポンちゃんのご機嫌な顔に、 「(手術は少し痛いけど、今の無邪気さのまま大きくなってお母さんに愛され可愛がってもらうのが一番さ!)」 そう心の中でつぶやいたのだった。 (文責:よしうち)

大阪市の南大阪動物医療センター

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