泌尿器

赤いおしっこの話

赤いおしっこの話

  獣医さんといえども人の子。診察室に入る前にはいくらか緊張し、頭の整理もしておきたいもの。次の診察のカルテを手に取ると、新患さんで、問診表にはおしっこが赤いと書き入れられている。診察室のドアを開けるまでのわずか数秒の間に頭を駆け巡る情報量は半端なものではない。

  赤い尿にも血尿(血球尿)と血色素尿がある。尿路系における出血と急性の溶血性疾患に伴う赤色尿の違いなのだが、要は、尿路に血が出てしまったか、体の中で血が壊れる病気が起きて赤血球の残骸が尿に出てしまっているかの違いなのだ。急性の溶血性疾患には、ネギ中毒・自己免疫性溶血・フィラリア症のひとつで後大静脈症候群などがある。ネギ中毒はじっくり問診をすれば分かるし、後大静脈症候群は特徴的な心雑音がある。自己免疫性溶血は確定がちょっと厄介。尿路系の出血には、膀胱炎・膀胱腫瘍などがあって、猫ではFLUTDと呼ばれる下部尿路症候群という概念が重要だ。昔、尿石症と呼ばれていたスツルバイトという結晶が尿中にたくさん出来てくる厄介な奴だ。犬では膀胱結石も多いし、老メス犬には結構、膀胱癌も多い。

  さて、カルテの患者情報に目をやると、5歳、去勢済み♂、ペルシャ、ブッチー、100%室内飼、食事はドライフードとある。ネコなのだから後大静脈症候群もなければ、玉ねぎを食べる可能性も極めて低い。膀胱癌なら学会で報告ものである。最近急に季節が進み、朝夕はめっきり寒くなってきた。FLUTDの発症は飲水量に大きく左右される。急に冷え込んだりするとネコは水を飲まない。ペルシャはもともと運動量の少ないネコである。おまけに去勢済みとなるとさらに運動量は減っている可能性が高い。去勢をしているしていないで身体的な差異はないが、去勢済みネコは運動量が少なく、よく食べてまるまると太っていることが多い。おまけに名前はブッチーときている。これは去勢前から健康優良児であった可能性が高い。必ずしもドライフードがFLUTDの原因とはいえないが、栄養密度が高く、カロリーに対して期待できる飲水量がかなり少ない。この状況では、寒くなって水も飲まずにガンガンフードを食って、まあるくなってねんネコしてたに違いない。膨大な量のマグネシウムを摂取して、わずかな飲水量では、スツルバイトがあっという間に膀胱内に結晶してしまう。

  「ブッチーちゃん、どうしました?」

  「トイレに入って、ウォーとかって鳴いてませんでした?」

  「あちこちに赤い血のおしっこの跡があったでしょ?」

  しゃべりながら、そっとお腹を触ると、普通では考えられないくらい膨らんだ膀胱が手の平に触れたのだった。

  少し膀胱を圧迫するだけで、ブッチーちゃんは排尿姿勢をとり始めた。相当がんばっているが赤いおしっこが1滴、突出したペニスからポタリと落ちただけである。スツルバイト結晶が尿道を閉塞し、排尿できなくなってしまっている。

  「ブッチーちゃんはおしっこがつまって出なくなっていますね。」

  「尿道カテーテルでつまりを通してから、尿毒症を起こしていないか血液検査しましょう。」処置の準備をしながら、ひどい尿毒症を起こしていないことをただただ祈るのみであった。

(文責:よしうち)



大阪市の南大阪動物医療センター

住所
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営業時間
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