2007年10月01日 皮膚科

「ニキビダニ」の話

「ニキビダニ」の話

 ニキビは青春の象徴かもしれないが、二十歳を過ぎれば吹き出物とか。しかし、昨今の化粧品、美容品のCMを見ているととてもそんな無責任な言葉は口に出せないほどに、様々なものが開発され、商品として流通し、ニキビがひとつ出来ても神経質に深刻に鏡をのぞきこむ現代若者像がうかがわれる。
 そんな時代であってもなくても、ニキビダニとニキビの関係にはデリケートな問題が含まれている。ニキビダニは別名毛包虫と呼ばれ、毛穴に寄生するダニの仲間で、すべての種の哺乳類にそれぞれ特異的に種分化したニキビダニが寄生し、ヒトではさらに分泌腺ごとに種分化したニキビダニとコニキビダニの2種が異なる部位に寄生している。その寄生率は100%といわれており、健康な皮膚からも検出されるのが普通だ。(現在知られている哺乳類は4千種、種分化したニキビダニは5千種といわれている。)
 問題はその実害についての評価にある。著しい多数個体のニキビダニがニキビに寄生していた場合、そうした寄生密度の高さがニキビをもたらしたのか、ニキビを引き起こす何らかの病変がニキビダニ寄生密度の高さをもたらしたのかを検証することは困難だ。一部の化粧品会社やマスコミなどのニキビダニがニキビなど皮膚病、肌荒れの原因との見方は、異常な過剰増殖が起きない限り実害のない現実と照らし、ほとんどすべての人に寄生するこのダニの不安をあおることになるという害のほうが多いように思われる。

 イヌのニキビダニの事情はどうだろうか。本質的にはヒトと同じだが、実害の出ている例数ははるかに多いように思える。ヒトもイヌもその実害は、副腎皮質ホルモン剤の使用や免疫不全を生じる疾患によってニキビダニの著しい過剰増殖が起こることによる。

 イヌの新生児にニキビダニの寄生はない。たいていは授乳中に母イヌから感染を受ける。免疫機構が十分に発達していれば何の症状もないのが普通だが、免疫機構が未熟な場合に全身性の皮疹を生じ、脱毛し、激しい皮膚炎を起こすことがある。しかし、成熟に従い免疫機構が十分に機能し始めると症状が消失していくのが普通だ。その間に増悪を防ぐための対症療法を続けていればよいということになる。(まれにだが、ニキビダニに対する免疫が欠損している場合には生涯にわたる治療の必要もあるのだが。)

 問題は、アトピー性皮膚炎やIBD(炎症性腸疾患)、喘息などで治療に副腎皮質ホルモンを必要としている動物たちや、甲状腺機能低下症で皮膚の新陳代謝が落ち込んでいたり、老齢で免疫機構全体のレベルが下がってきている動物たちだ。
 長期にわたる副腎皮質ホルモン投与や甲状腺異常、免疫の低下によってニキビダニの過剰増殖が起きる。アトピー性皮膚炎の悪化と思い込んでいたらニキビダニ症だったとか、高齢になってきたから薄毛になったと思っていたらひどい皮膚炎が始まり全身に広がったとか、本来なんら症状を出さないニキビダニが過剰に増殖し、唐突に暴れ始めるのだ。

 診断は皮膚の掻きとり検査で、おびただしい数のニキビダニが検出される。

 副腎皮質ホルモンの使用時にはなんらかの代替薬に切り替え、また甲状腺機能低下症であればその治療も開始し、さらにニキビダニ症の治療も始めることになる。

 ニキビダニ症の治療は疥癬症の治療と大きくは違わないので(共にダニの仲間なので)、「疥癬虫とMDR1遺伝子」の話を参照されたい。
ニキビダニ症の治療もイベルメクチン製剤が中心となるが、ニキビダニはアミトラズ製剤によく反応するため、軽症であればアミトラズ製剤の外用のみでも治療が可能だ。逆に重症の場合は、細菌の二次感染が激しく、抗生剤の内服が不可欠になる。またポドデモデコーシスと呼ばれる四肢端、特に指先の皮膚炎が激しいものは、イベルメクチン製剤の投与とアミトラズ製剤の外用を併用すべきで、完治は望めないことが多い。

 哺乳類とニキビダニはある意味で、太古より共棲してきたともいえる関係なのだが、はて、哺乳類にとってニキビダニとの共棲はなんらかのメリットがあるのだろうか。毛包上皮細胞を餌に生きているというニキビダニ、哺乳類の毛包をむしろ健全に保つ仕事をしていたりして、などと途方もない想像をめぐらせてしまう。いずれにせよ、またどんなことであれ、どうも過剰な増殖というのはよろしくないようだ。

(文責:よしうち)

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