2008年03月01日 神経科

「大泉門」の話

「大泉門」の話

 大泉門と呼ばれるからだの部位をご存知だろうか。人の赤ちゃんでは頭頂部やや前寄りにあり、ひし形の頭蓋骨の無い部分を指す。この大泉門は前頭骨、側頭骨、後頭骨などの頭蓋骨を形作るいくつかの骨の継ぎ目つまり縫線の交点にあたる。新生児期から乳児期にかけて脳が急速に発育し大きくなることに合わせて、脳の発育に悪影響を及ぼさないように頭蓋骨も大きくなる。そのために、いくつかの骨の集まりである頭蓋骨は、縫線が閉じず、またその交点である大泉門の部分にはある程度のスペース的な余裕が必要なのだ。したがって、脳の発育が落ち着くまでの間、大泉門は開いていて、心臓の拍動にあわせてペコペコと動いたり、脱水を起こしてしまった場合には、凹んでしまったりと、頭蓋内の状況を最も反映する部分となる。つまり、大泉門は、脳の発育と頭蓋骨の発育がそれぞれに並行して行なわれる際に、互いに頭蓋内圧という情報を共有し、あうんの呼吸で進んでいくための、ネゴシエーションの象徴とも言えるだろう。

 一方、犬や猫では、生まれてきた時にこの大泉門はすでに閉じており、トイ犬種など大泉門の閉じるのが遅い犬種でも、生後3ヶ月にはほとんど閉じてしまうのが一般的だ。しかし、チワワなどの頭蓋骨の形がドーム状のトイ犬種では、生まれてきた時に大泉門が閉じていないことが多く、生後3ヶ月を過ぎても閉じる気配のない場合、終生、大泉門は開存し続けることが多い。

 ここで考えなければならないことは、大泉門の開存となんらかの頭蓋内疾患の関連についてだろう。大泉門の閉鎖と頭蓋内圧には密接な関係があることは疑いようもない。頭蓋内圧を上昇させぬように頭蓋骨は発育し、脳の発育がおさまってくれば、頭蓋骨は縫線を閉じ、大泉門も骨で覆われる。この双方向に情報交換が行なわれながら並行して進む脳と頭蓋骨の発育期に、例えば水頭症のような頭蓋内圧の上昇を来たす疾患が存在した場合、常に頭蓋内圧が高いため大泉門は閉じることができずに発育期間を終えることになる。

 特にトイ犬種の水頭症では、先天性のことが多いため、胎生期においてもすでに頭蓋内圧の上昇が認められ、出生時に大泉門が大きく開存している場合も珍しくはない。しかし反対に、チワワなどでは頭蓋骨が脳の発育に追いつけず、大泉門を閉じる間もなく骨の発育期間を終了する場合もある。つまり、大泉門の開存は水頭症などの頭蓋内疾患の一症状の事もあれば、全く無関係のこともあるのだ。

 残念ながら、色々な場面でこの大泉門の開存と水頭症が同じ土俵で論じられ、混同され、チワワオーナーの心中をかき乱していることは否定できない。大泉門が開存しているからといって悲観すること無かれ。必ずしも大泉門の開存が水頭症の発病を予告するものではないからだ。実際、大泉門が閉じている動物での水頭症も数多く報告されており、もし将来に大規模な水頭症の統計が行なわれることがあれば、大泉門の開存と水頭症の発病に一定の相関があるかどうかはっきりすることだろう。獣医師も科学者の端くれ。エビデンスの無いことを漠然とした感覚だけで受け流すことだけは避けなければならない。それが真摯に病気に立ち向かうということではないだろうか。
(文責:よしうち)


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