循環器

「肥大型心筋症の猫の心筋肥大を改善する薬」の話

「肥大型心筋症の猫の心筋肥大を改善する薬」の話

2025年2月のコラム「猫の心臓病」猫の心筋症の話の原稿を書いていたちょうどその頃、ノースカロライナ州立大獣医学部の大学院副学部長である獣医心臓病専門医ジョシュア・スターン博士とアイルランドの動物薬企業TriviumVetが協力して進めていた研究によって、シロリムス (ラパマイシンとも呼ばれる)が肥大型心筋症の猫の心筋肥大を改善することが明らかにされ、FDA(米国食品医薬品局)に承認申請が行われていたのです。

先のコラムでは、無症状の心筋症の猫の心筋肥大を抑制する薬剤はなく、各種心不全治療薬が、無症状からうっ血性心不全になる期間を延長する効果はことごとく否定されていることを述べました。そして、ある種のフード(ロイヤルカナンの猫心臓サポート)が、心筋肥大の促進因子を抑制する可能性があることにも言及しました。

最後には、無症状の猫の心筋症の進行を遅らせるにはストレスのない生活と猫心臓サポートくらいしかないという現実は、いかにも心もとないと嘆いてもいたのです。

ところが嬉しいことに、冒頭で述べたようにシロリムス徐放錠の承認申請が行われ、ついに2025年の3月末にFDAから条件付きで承認されたのです。

ジョシュア・スターン博士

(ノースカロライナ州立大学HPより)

日本の薬機法にも早期実用化のための特例制度(条件・期限付き承認)が設けられているように、効果・効能があると推定される場合に、効果効能及び安全性を証明するために、より多くのデータを取得できるようにするための条件付き承認と考えられます。

iPS細胞製品の「リハート」(重症心不全治療製品)と「アムシェプリ」(パーキンソン病治療製品)の2製品が、厚生労働省に条件・期限付きで承認されたというニュースはご存じの方も多いかもしれません。

シロリムスは、1970年代半ばにイースター島の土壌細菌(Streptomyces hygroscopicus)から発見されたマクロライド化合物で、mTOR(mammalian Target Of Rapamycin)阻害剤として作用し、細胞増殖や血管新生に関わる遺伝子の働きを抑制します。これにより、腎移植後の免疫反応抑制や、異常な血管やリンパ管の増殖を抑えるように作用します。また、T細胞やB細胞の活性化を阻害することで免疫抑制作用を発揮します。

猫用シロリムス徐放錠の製品名はFelycin®-CA1。有効成分を長時間にわたってゆっくり放出するよう設計された錠剤で、用法は週に1回の経口投与となっています。

<Felycin®-CA1のプロフィール>

■適応症:

潜在性肥大型心筋症(HCM)の猫における心室肥大の管理。

潜在性HCMとは、全身性高血圧、その他の代償性心筋肥大の原因、現在または過去のうっ血性心不全の症状、動脈血栓塞栓症、および重度の左室流出路閉塞がない状態で、左室肥大(2DまたはMモード評価による拡張末期の左室壁厚が6mm以上)を有する猫を指します。

■禁忌事項 ①:

糖尿病の猫にはFELYCIN®‑CA1を投与しないでください。FELYCIN®‑CA1を投与中の猫が糖尿病と診断された場合は、直ちに投与を中止してください。

■禁忌事項 ②:

既存の肝疾患のある猫には、FELYCIN®‑CA1を投与しないでください。


治療開始後1〜2か月後に血液検査を再度実施し、その後は6〜12か月ごとに実施してください。軽度のトランスアミナーゼ値の上昇(正常上限値の2倍まで)が認められた場合は、2か月後に再度血液検査を実施してください。これらの値が依然として高い場合は、FELYCIN®‑CA1による治療を中止してください。

■注意事項:

FELYCIN®‑CA1による治療は、猫がワクチン接種に対して適切な免疫反応を示す能力に影響を与える可能性がありますが、FELYCIN®‑CA1の同時投与がFHV‑1、FCV、FPV、およびFeLVのワクチン接種に及ぼす影響は評価されていません。

(PRN社HP:Prescribing Infoより)

FELYCIN®‑CA1は心筋症の原因に直接働きかけるという、今までにない作用機序を持つ薬剤です。今後数年でより長期的な効果・効能や安全性についてのデータが集約されることでしょう。

FDAによる条件付き承認薬であるということを踏まえたうえで、日本の獣医師が米国から輸入し、使用することは不可能ではありません。もし愛猫が潜在性肥大型心筋症なら、治療の選択肢の一つとしてこの薬の使用を検討してみても良いでしょう。

(文責 吉内)


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