猫学

「猫の喉ゴロゴロに込めた思い」の話

「猫の喉ゴロゴロに込めた思い」の話

先日遅めの夏休みをいただき、カナダのスキーナ川に釣り遠征をしてきました。時期的には、ソッカイ(紅鮭)の遡上が終わり、コーホー(銀鮭)がそろそろ遡上を始める頃で、スティールヘッドと呼ばれるニジマスの降海型の遡上最盛期の終盤に当たります。スティールヘッドは遡上と降海を繰り返す魚で、1回の遡上で終わってしまう鮭と比べ余力を残しているため、素晴らしいファイトを発揮して釣り人の手を振りほどこうとします。その上、個体数も鮭よりうんと少ないことから、ヨーロッパからカナダへ10年通っても釣り上げられない釣り人がいるというほど、釣り人の垂涎の的なのです。幸運なことに、そのスティールヘッドを今回、釣ることができました。



  その嬉しさをどう表現して良いものやら、水泳の誰かのように「なんも言えねぇー」という感じで、サンキューとハッピーを連呼してしまいましたが、アイルランド人のローレンスという釣り宿仲間が、自分が釣った時に皆にふるまうために用意したハイランドパークというウイスキーを大喜びでふるまってくれました。

  嬉しさの表現というのは、人によっても様々だと思いますが、猫であれば、さしずめ喉をゴロゴロということになるのでしょう。そういえば先日、「うちの猫は、ほとんど喉ゴロゴロをしないんです。どうしてでしょうか?」という質問を受けたことを思い出しました。その時にうまく答えることができずに、日本獣医生命科学大学の入交眞巳先生の行動学のセミナーのノートを引っ張り出したのです。

  猫は、咽頭筋を早く収縮させることであのゴロゴロ音を出しています。ご主人の膝の上で丸くなっている時、大好きな家族になでなでしてもらっている時、時には目が合っただけでも、猫はゴロゴロと喉を鳴らします。猫のゴロゴロは、嬉しさのサインに違いないと思えます。

  猫のゴロゴロは、専門用語で「ソーシャルソリシテーション」といいます。ソリシテーションを辞書で引くと次のように書かれています。


solicitation

【名】
1.〔金銭・支援・情報などの〕懇願、懇請
       2.《法律》教唆
       3.提案書、勧誘書、引き合い書、行動要請書

[用例]street solicitation 街頭での客引き
   telephone solicitation 電話勧誘


そこで「ソーシャルソリシテーション」を直訳すると「社交上の勧誘、社会的な嘆願、目上の人への懇願」となります。要するに、音を出すことによって、相手の注意を惹くための社会的行動とされているのです。

椅子に横たわっているときにじっと目を見つめると喉をゴロゴロ鳴らし始めるわが家のコテツは、いつもそれに引き続いてしてもらえる頬ずりとなでなでを期待して、喉を鳴らしていたのですね。つまり相手あってこその行動です。だから、日だまりで気持ちよさそうにうたた寝していたとしても、ひとりきりでいる場合は喉を鳴らしません。気持ちを伝えたい相手がいて初めて、ゴロゴロと音を出して知らせるのです。「いつまでもなでなでしていてね」という甘え行動の一種でもあります。



  でも、このソーシャルソリシテーションのゴロゴロは、幸せモードの時だけに出す音ではありません。辛い、耐えがたい時の猫も、ゴロゴロと喉を鳴らすことがあります。この場合は、「ボク、すごく辛い!助けて!」と訴えていると考えられています。こういう場合でもやはり、ひとりきりでいたらゴロゴロとはいいません。それに、他の人や猫がいたとしても、助けて欲しいと思える相手でなければ、ゴロゴロとはいわないでしょう。きっと助けてくれる、信頼している相手が傍らにいる時に出す、音によるサインの一種なのです。

  猫の採血はしばしば内股静脈から行います。とても病院に慣れた子で、次の写真のように保定し、採血を始めると、いつも喉をゴロゴロと鳴らし始める子がいるのです。



  頭をなでながら寄り添ってくださっているお母さんは、「あらこの子、採血が好きなのかしら」と、少し自慢気な様子。でも実は「母ちゃん、離してもらってくれよ〜。おれやだよ〜!」と助けを求めているのです。せっかく気分よくご協力いただいているお母さんに、とても本当のことは話せないですよね。

  魚を釣った嬉しさの表現も、気心知れた釣り仲間がいればこそ。膝の上で抱っこされる嬉しさの表現「喉ゴロゴロ」も、頼れるご家族あればこそなのですね。

  「うちの猫は、ほとんど喉ゴロゴロをしないんです。どうしてでしょうか?」と問われた時、「もっとスキンシップを増やして、猫ちゃんとのコミュニケーションを図りましょう。」とアドバイスすべきだったのかもしれません。

(文責:よしうち)


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