泌尿器

「細胞の低酸素応答機構の研究(ノーベル生理学・医学賞2019年)が変える猫の慢性腎臓病治療」の話

「細胞の低酸素応答機構の研究(ノーベル生理学・医学賞2019年)が変える猫の慢性腎臓病治療」の話

19世紀に、高地に住む人は多血症であることが分かり、酸素濃度の低い環境が多血症を引き起こすことが証明されました。そして、20世紀後半になって、多血症を誘導する体内因子が発見され「エリスロポエチン」と名付けられたのです。そしてこれが腎臓で作られていること、さらに腎臓の間質に存在するエリスロポエチン産生細胞によって産生され、骨髄の赤芽球系前躯細胞に働き、その増殖や分化を促し、造血を促進していることなどが次々と解明され、現在もその複雑な作用について研究が続けられている最中です。

2019年、米国のグレッグ・セメンザ教授、ウィリアム・ケーリン教授、英国のピーター・ラトクリフ教授の3名が、細胞が酸素濃度を感知し応答する仕組みを解明した功績でノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

彼らが発見した中心的な分子が「HIF(低酸素誘導因子、Hypoxia-Inducible Factor)」です。HIFは転写因子として機能し、低酸素状態において様々な遺伝子の発現を調節します。具体的には、酸素が十分にある環境下では、HIF-αサブユニットはプロリン水酸化酵素(PH)によって水酸化され、VHLタンパク質に認識されてプロテアソームで分解されます。一方、低酸素環境下では、この分解が抑制されHIF-αが安定化し、HIF-βと結合して活性型のHIFとなります。

この活性型HIFは、赤血球の産生を促すエリスロポエチン遺伝子の転写を誘導し、さらに、鉄の運搬や吸収に関連するDMT1DcytbTf などの遺伝子の転写を誘導して、鉄利用を亢進することも分かっています。

慢性腎臓病の猫の30-65%に貧血が認められ、その治療に猫エリスロポエチン製剤が使用されていると2023年10月の本コラムでお話しました。(エポベットの画像をクリックすると2023年10月のコラムページが開きます。)

腎性貧血がエリスロポエチン産生細胞の減少によるものであれば、その治療はエリスロポエチンの体外からの補充に頼らざるを得ません。けれども、ある程度エリスロポエチン産生細胞が残存しているのであれば、HIFを活性化させ、エリスロポエチンの産生を促し、鉄利用を高めるという方法が理にかなっているように思います。

そこで登場したのが、HIF-αの分解に関与しているプロリン水酸化酵素(PH)の阻害薬です。人ではすでにロキサデュスタットがエベレンゾという商品名で利用され、良好な成績を修めています。

ならば猫用はということになりますが、このコラムが掲載される9月には国内で販売が開始されるようです。(米国では2年前に利用が可能になっています。)

猫用のプロリン水酸化酵素(PH)の阻害薬はモリデュスタットという製剤で、バレンジンという商品名で発売されます。1日1回飲むだけの液体製剤で、フィッシュフレーバー味。

猫の腎臓病に対して、早期発見-早期治療が重要となっている中で、腎性貧血に対しても早期から治療を開始できるようになることは大きな恩恵です。

ノーベル賞受賞の知見が治療に直結。

「科学ってほんとにすごいニャ~^^」

(文責 吉内)


大阪市の南大阪動物医療センター

住所
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
営業時間
午前:9:00 〜12:00
午後:13:00〜15:00(水・土を除く)
午後:16:00〜19:00(水・土を除く)
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料770円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。
定休日
年中無休
最寄駅
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅
・・・エントリー・・・
「細胞の低酸素応答機構の研究(ノーベル生理学・医学賞2019年)が変える猫の慢性腎臓病治療」の話
「アスコフィラム・ノドサム」の話
「肥大型心筋症の猫の心筋肥大を改善する薬」の話
「まったりフェロモン」の話
「どうどうフェロモン」の話
・・・カテゴリー・・・
エキゾチック
ヘルニア
人と動物の関係学
内分泌
呼吸器
形成外科
循環器
感染症
整形外科
栄養学
歯科
泌尿器
消化器
猫学
皮膚科
眼科
社会事象
神経科
繁殖学
腫瘍学
行動学
診断学
遺伝
・・・アーカイブ・・・
2026年のブログ
2025年のブログ
2024年のブログ
2023年のブログ
2022年のブログ
2021年のブログ
2020年のブログ
2019年のブログ
2018年のブログ
2017年のブログ
2016年のブログ
2015年のブログ
2014年のブログ
2013年のブログ
2012年のブログ
2011年のブログ
2010年のブログ
2009年のブログ
2008年のブログ
2007年のブログ
2006年のブログ
2005年のブログ
2004年のブログ
2003年のブログ
2002年のブログ
2001年のブログ
2000年のブログ

院長コラム

VetzPetzClinicReport
Doctor'sインタビュー

・・・サイトメニュー・・・
HOME
診療案内・アクセス
施設案内
スタッフ紹介
よくある質問
協力病院
ドッグサービス
キャットフレンドリー
院長インタビュー
院長コラム
スタッフブログ
お問い合わせ
動物を飼う注意点
去勢・避妊について
ストレスについて
採用情報
新着情報
・・・手術について・・・
負担の少ない手術
手術の流れ
・・・犬の手術・・・
膝蓋骨脱臼、骨折
避妊、去勢手術
会陰ヘルニア
リハビリ
・・・猫の病気・・・
目(眼)の病気
口の病気
耳の病気
鼻の病気
呼吸器系の病気
消化器系の病気
皮膚の病気
癌、腫瘍
ヘルニア

・・・診療時間・・・

診療時間
9:00〜
12:00
13:00〜
15:00
16:00〜
19:00
外来診療
17:30〜
19:30
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料770円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。

・・・所在地・・・

〒547-0016
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
tel: 06-6708-4111
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅より徒歩8分