「猫が顔を洗うと雨」の話

2008年6月1日猫学

我が家にいる猫の1匹は、私が仕事で遅く帰りおもむろに夕食を摂り始めると、決まって食卓にやってくる。しつけ的にも衛生的にもほめられた話ではないのだが、6人掛けのテーブルの自分とは一番遠い角にちょこんと座るのだ。テーブルに昇らぬように叱っていたせいか、今にも滑り落ちそうな端っこに座りそばには来ない。そして興味深そうに食事している様子をマジマジと観察し続けるのだ。悪びれるそぶりもなく、かといって何かを欲しがるわけでもない。夕食の相手をしてくれているつもりなのだろうかと思っているうちに、それがいつの間にか習慣になってしまった。いつもこの上なくきちんとオスワリをしてその姿勢を崩さない。晩酌を始めて長い食事になると目がとろけてきて居眠り状態になるのだが、それでも正座を崩さない。いやはや何ともけなげな奴よと思いつつ、癒されている自分がいる。

その彼が唯一正座以外のことをするときがある。顔を洗い始めるのだ。しかも相当丹念に。手をグーにして舐めては顔をぬぐう。大切なひげをピカピカにしている。「あー、明日は雨か。」とこれは確信なのだ。

いろいろな猫がいて、しょっちゅう顔を洗うオシャレさんから、めったに顔を洗わない不精まで、ストレスを感じると顔を洗う転移行動派もいる。これでは、少しも天気予報にはならない。けれど彼が食卓に来て自分の夕食の相手をしている時に顔を洗えば、明日は間違いなく雨なのだ。ひげを中心に顔の前側だけを洗っている時は、雨が遠いか降りそうなくらいの曇りで降らないこともある。耳の後ろから頭を抱えるように全体を洗う時は雨がもう近い。

「そーか。明日は雨か。」何の疑いもなくそう思いながら猫の頭を撫で、「ご馳走さんでした。」と食事を終える。今月のコラムのネタに困って、アトピーのインターフェロン療法について書こうか、肥満と減量プログラムについて書こうかと、あれやこれや思いを巡らせていたのだが、

「梅雨も近いし、君の話にしよう。小ネタやけどね。」そう語りかけた。

「小ネタで悪かったな」と言わんばかりに食卓から飛び降りて振り向いた彼の顔が笑っていた。

（文責：よしうち）